「飛び込みの成功率上げたきゃ、営業トークもテンプレばっかりじゃなくて、ていうか一種類のテンプレだけじゃなくて、いくつか用意しといてさ…」



缶コーヒーを開けながら、健吾くんがはっと口をつぐんだ。

みるみる照れくさそうな顔になり、目を泳がせる。



「わり、語った…」

「聞いてたのに。続けてよ」

「やだよ」

「シュークリームがあるよ」

「マジで!」



冷蔵庫から白い箱を出して見せると、予想以上の反応があった。



「また瞬間バイトしてきたの?」

「うん」

「小遣いももらってるんだろ?」



ふたつのシュークリームを小皿に乗せて部屋に戻ると、待ちかねたように手が伸びてくる。



「お兄ちゃんの稼いだお金は、もっと必要なことにだけ使うの」

「郁のそういうとこ好き」



隣に座って、私もひとつ取った。

はずみで腕が、健吾くんのむき出しの二の腕に触れた。

すらっと伸びて、でもやっぱりもう成長は終わってるんだなって感じの完成した形の腕。

腕一本ですら見とれるレベル。



「なに見てんだよ」

「かっこいいなあって」

「なにも出ないぞ」

「いいよーだ」



わかってますよ、とシュークリームをかじろうとしたところを、手で遮られる。



「なに?」

「嘘」

「なにが?」



「キスが出るよ」と聞こえたときには、もう目の前に顔があって、一瞬後に唇が重なった。