「バイトさせてもらえます?」

「助かるわあ、そろそろ来るかと思って待ってたのよ」



三角巾を頭に巻いたおばさんが、おいでおいでと手招きする。

私は店内に入り、カウンターの内側に回った。


2時間ほどレジやおかず詰めをやらせてもらい、時給720円×2=1,440円をその場でいただき、帰路につく。

こういうウルトラ短期バイト先を、いくつか持っている。

少し先のケーキ屋さんに寄って、稼ぎたてのお金でシュークリームを3つ買い、もう一度大通りに戻ってバスに乗った。



【今日、夕食家で食べられる?】



健吾くんにメッセージを送ると、すぐに返事が来る。



【うん。8時には帰る】

【作っとく】

【サンキュ】



一度部屋に寄り、冷蔵庫の中身を確認してからスーパーに行こう。

窓の外を見ながら、そう決めた。





「なんだそいつ、完全に郁(いく)に惚れてんな」

「幼なじみだからね」

「で、同じクラスで?」

「そう」

「家がお隣さんで?」

「うん」

「野球部?」

「だね」

「恋に落ちるフラグ立ちすぎだろ」

「野球部、関係あった?」



家庭的な和食を好む健吾くんのために、夕食は焼き鮭、夏野菜の炒め物、小松菜のお浸し、お味噌汁、冷奴、みたいな感じだ。

帰るとすぐにTシャツとハーフパンツに着替えた健吾くんは、髪を上げないせいもあって、大学生くらいに見える。

会社に行くときも、自然に前髪を下ろしたままなので、固めたりしないのと以前聞いたところ、それをやるとがんばってる成人式の子みたいになってしまうらしい。

童顔というほどでもないけれど、小奇麗な顔立ちのせいで、実際の年齢よりは下に見える。