そこでようやくホームルームが始まっていたことに気づいた私。


慌てて小説を閉じ、イヤホンをはずすと、一気に現実世界へと引き戻される。



「土屋さん、とっくにホームルームは始まってますよ」


「……すみません」



木村先生は、ハァと嫌みったらしいため息をつく。


20台半ばの木村先生は、美人で若くて、男子から人気がある先生だ。


だけど、どうも私はこの人を好きになれない。


きっと、彼女もまた私のことを好きではないだろう。


それが、私が彼女を好きになれない最大の理由かもしれない。


先生を視界に入れたくなくて、窓の外へと視線をそらした。


すると。



「クスッ。どうせ男のことでも考えてたんじゃないのぉ?」



すぐ後ろから、耳障りなぶりっこ声が飛んできた。


私は、この声の主のことを嫌というほどよく知っている。