「よー、百井」
倉科くんに会ったら、まずなんて言おう。
そんなことばかり考えながら教室に向かっていると、突然後ろから呼ばれた名前。
廊下で立ち止まって、振り返る。
夏休み、長い1ヶ月。何度も何度も繰り返し思い出してはドキドキして、会いたくなって、寂しくなって。
ずっと聞きたかった、その声。
「お、おはよう……!」
明らかに不自然なくらい、声が裏返ってしまった。
久しぶりに見る彼は、少しだけ日に焼けていて。
夏祭りの時より少し、髪が伸びていた。
「早く歩かないと遅刻するぞ」
言わなきゃ、何か。
そうやっていっぱいいっぱいのあたしとは違って、いつも通りすぎる倉科くん。
いつもみたいに笑って、足早に教室に向かっていく。
なにそれ。
なんだそれ。
ドキドキうるさい私の心臓が。
全然ドキドキしてなさそうな、彼の心臓が。
……ずるい、悔しい。



