* * *




「百井さん、赤のペンキ貸してくれる?」
「あ、どうぞ!」

「百井さんって意外と不器用なんだね」
「うう……」
「あはは、冗談だって。綺麗に塗れてるよ」



文化祭の準備日。

女子のほとんどは衣装の装飾をしているんだけれど、柑奈は手芸が得意じゃないからと看板作りを担当している。

男子が多い中、楽しそうに喋る柑奈たちの会話を、最初は黙って聞いていたけれど。




「柑奈、そこすげーはみ出してるよ」


俺以外の男に可愛い顔して笑って見せるのがムカついて。

そんな柑奈にデレデレしてる男子たちにイライラして。


つい柑奈にちょっかいを出しに行ってしまう。



暑いからと捲った白いワイシャツも。
ペンキにつかないようにまとめた髪も。
顔を上げて俺を見上げる大きな瞳も。
ふわりと香ったシャンプーのいい匂いも。



全部にドキドキして、思わず目を背けてしまったことなんて。

俺がどれだけ柑奈を好きなのかなんて。

鈍感なこいつのことだから……。



「(きっと気付いてないんだろうな)」