「レイなんかのために来てくれてありがとう。ルミナは、本当に優しいね」
私は、ギルの優しく包み込むような口調に、かぁっ!と顔が赤くなる。
ギルは、私の頭をなでながら言葉を続けた。
「大丈夫。レイには僕からここには来ないように伝えておいた。彼のことは心配しないで」
その瞬間、ほっ、として体の力が抜ける。
よかった…、レイはここに来ないんだ。
私は走ったために乱れた呼吸を落ち着けながら、ギルに向かって口を開いた。
「ギル、ありがとう!レイに伝えてくれて。ごめんなさい、私、ここに来る必要なかったね…」
ギルは小さく首を横に振って甘い声で囁いた。
「ルミナの気持ちは伝わった。誰かを助けたいと思ってした行動に、無駄なものなんて一つもないよ」
とくん、と小さく胸が鳴った。
ギル、優しいな。
危険なことをした私を怒らずに褒めてくれるなんて。
私は、ギルに向かって言葉を続ける。
「あのね、ギル。私、次あなたに会ったら、聞こうと思っていた事があるの。」
どうして、私の名前を知っていたのか
どうして、私のことを守ってくれたのか
「ギル、あの………!」
私が口を開こうとした瞬間、ギルの人差し指が私の唇に、そっと触れた。
冷たい手の感触に、体じゅうが熱くなる。
ギルは甘く微笑んで私の唇から人差し指を離すと
自分の唇に当てて、しー…、と仕草をした。
「それ以上はダメだよ、ルミナ。今は話をするよりも、早くここから離れるんだ」
優しくもどこか妖美な声。
そうだ…!
闇に狙われている私がここにいたんじゃ、またギルに迷惑がかかる…!
ギルは私の肩を、トンッと軽く押して小さく言う。
「急いで、ルミナ。ここは僕が食い止めるから…………」
と、その時だった。
ボーン、ボーン、ボーン
八時を告げる鐘が鳴った。
地響きがするような低い音が、レンガ造りの時計台から鳴り響く。
はっ!として、私とギルが時計台を見上げた次の瞬間。
私たちを照らしていた月明かりが、ふっ!と消え、数え切れないほどの黒マントの影が辺りを覆った。



