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「ごちそうさまでした。」


朝ごはんを食べ終わり、お皿を持って席を立った私は、キッチンに入り、スポンジを手にした。


それを見たモートンが、私に声をかける。



「僕が洗いますから、ルミナさんは座っていていいですよ。」


「いえ…!泊まらせてもらってご飯までごちそうになったのに、何もしないなんて悪いです。

皿洗いは酒場でよくやりますし、慣れてますから。」



…そう。

レイに何度も仕事として頼まれて、今までこなしてきた。


何か手を動かしていないと、余計なことまで考えそうで…怖い。


モートンは、そんな私の心中を察したのか、小さく呼吸をして私を見つめた。



「わかりました。お願いします。

僕は研究室にいるので、何かあったら言ってください。」



「はい…!」



私がモートンの言葉に返事をした

その時だった。



…ドンドンドン!



ログハウスの玄関の扉を誰かが叩く音がした。







私は、モートンと共に玄関に向かい

丸太でできた扉を開ける。



するとそこには、漆黒の髪の青年が立っていた。



「…ロディ…!」



私が彼の名前を口にすると

ロディは私とモートンを交互に見ながら口を開いた。



「朝早くに悪いな。

レイのことで、話があるんだ。」



…どくん!


レイの名前を聞くだけで、心がぎゅっ、と締め付けられた。


ロディは、私を気遣うようにして話し始める。



「…昨日、レイと一晩中話してみたんだ。

だが、闇喰いのことやラドリーさんのことは覚えてるみたいでも、嬢ちゃんのことだけは思い出せなかった。」



…!



私が、微かに唇を結ぶと

ロディは、ばっ!と私の手を取って言った。



「嬢ちゃん。辛いかもしれないが、一緒に来てくれないか。

確かめたいことがあるんだ。」






“確かめたいこと”…?



私が目を見開くと、モートンが私の背中を、トン!と軽く押した。


驚いてモートンへと振り返ると

モートンは優しげな表情で私に言った。



「…行ってください。僕は、名もなき魔法の研究を続けます。

レイ君なら、きっとルミナさんの事を思い出すはずです。」



…!


モートン……。


ふいに泣きそうになった私に

モートンは私の顔を覗き込むようにして言葉を続けた。



「…でも、もし、本当に苦しくなった時は、またここに来てください。

僕が昨日レイ君から頼まれたのは、ルミナさんを守ることだけではありませんから。」



え……?


私が聞き返す間もなく、モートンは優しく私とロディに手を振ってログハウスの扉を閉めた。



…バタン。



視界に、丸太の扉が映る。



今のは、どういう意味…?



その時

私の手を取ったロディが、くいっ、と私を
軽く引っ張った。



「…行こう、嬢ちゃん。

また、ここに来る時は俺が連れてきてやるから。」



…っ!


私は、ロディの手を握り返し大きく頷いた。



そして、私たちは酒場にいる“レイ”の元へ向かうため

薄暗い樹海へと入って行ったのだった。