驚いて目を見開くエンプティに、俺はさらに言葉を続けた。



「“シン”は、相手を消すものじゃない。
永遠の深い眠りにいざなうだけなんだ。

俺はお前の命を奪わない方法で、お前の
“復讐”を終わらせる。」



エンプティは、俺の言葉を予想していなかったんだろう。


数回まばたきをして、動揺したように口を開いた。



「今さら、情けでもかけるつもり?

つくづく甘いね。僕が弟だから?」



「…お前を消すと、ルミナが泣くから。」



「…!」



ぴくり、とエンプティの肩が震えた。


奴は小さく呼吸をした後

どこか複雑そうな顔をして低く呟く。



「…ふーん、なんだ。少しでも動揺した僕がバカだった。

結局は僕じゃなくて、ルミナの為なんだ?」



「いや、お前のことも大事だよ。」



「“おまけ”で言ってるようにしか聞こえないんだけど…!」



お互い、視線を逸らさずに睨み合う。


まだあどけなさが残る少し幼い顔は

俺に過去の“ルオン”を思い出させる。



…辛い過去は、今さら忘れられない。

心と体に負った傷も、消せやしない。


もう、こいつの復讐の道も、俺の闇喰いとしての道も後戻り出来ない。



「…エンプティ。」



俺は、奴の名前を呼んで

はっきりと言った。



「俺は、どんなリバウンドがあろうとも、必ずお前に“シン”をかける。

もう何を言ってもお前を止められないのならせめて俺が“兄として”力ずくでお前を止めてやる。」



「!」



ザァッ!!


強い風が辺りを吹き抜けた。


ざわざわと遠くの木々が揺れる。


風になびく外套が大きく音を立てた時

エンプティは冷たい瞳で俺を見つめた。



「…ふん。やれるものなら、やってみなよ。

手加減なんてしようものなら、すぐに僕がシンを奪って、兄さんを深い眠りに沈めてあげる。」



エンプティが、挑戦的に魔力をブワッ!と放出した。


一気に空気がビリビリと振動する。



俺は、ザッ!と足を一歩前に出した。


踏み込むようにして手を構える。



「弟相手に手加減なんかするかよ。」



俺の声が辺りに響いた瞬間

パァッ!と、俺は瞳を輝かせた。


もう、迷いなんてない。

さっさと終わらせて、酒場に帰る…!


俺はルミナを残していくわけにはいかねぇ。


ロディにも、モートンにも、タリズマンにも言いたいことが山ほどある。


……目の前の“コイツ”にも…!




「……行くぞ、くそガキ…!」


「来なよ、バカ兄貴…!」




ダン!と地面を蹴った瞬間

大きな二つの魔力がぶつかり合った。