ガロア警部の言葉に

俺はぴくり、と反応した。


そして、少しの沈黙の後

ガロア警部は俺に向かって言葉を続けた。



「本部で少し、お前の過去について調べさせてもらったんだが…余計分からなくなるだけだった。

ミラから聞いたんだが、お前、エンプティと知り合いだったみたいだな?」



「……。」



プライベートとかって言いながら、ちゃっかり尋問してるじゃないですか。


俺は心の中でそう呟いた。


…まぁ、ギルの正体をバラした以上

この後に及んで隠し事をする必要はないな。


俺は、カウンターに頬杖をつくガロア警部に向かって口を開いた。



「…エンプティと初めて会ったのは二年前。あいつが研究所を廃墟にした日でした。

俺が、あいつを止められなかったことが、全ての始まりなんです。」



ガロア警部が、微かに眉間にシワを寄せる。


俺は、グラスを拭く手を止めずに話を続けた。



「俺の過去は、調べても出てきませんよ。

モートンの養子になる前の俺は、死んだことになってますから。」



「!」



ガロア警部は、大きく目を見開いた。



と、その時

カタン…、と酒場の外から小さな音がした。


俺は、ぱっ、と窓の外を見る。



「…郵便か?」



ガロア警部がそう呟いた。

俺は、カウンターから出て酒場の扉を開ける。


そして、ポストに届いていた白い封筒を手に取ってガロア警部の横に腰をかけた。


ゆっくりと封を開ける。


以前のように、闇の魔法はかかっていない。


しかし、俺とガロア警部は中に入っていた手紙を見た瞬間

ぐっ、と眉間にシワを寄せた。



「…ん?なんで書いてあるんだ、コレ?」



ガロア警部が、俺の隣で低く呟いた。


封筒の中に入っていたのは、一枚の手紙。


そこには、記号のような文字が行に沿って並んでいる。


首を傾げたガロア警部は、目を細めたり眉を上げたり下げたりしながら言った。



「なんかのイタズラか?」



俺は、手紙に視線を落としながらガロア警部に答えた。



「いや、これは古い魔法書に載っている古代文字です。

落書きみたいですけど、ちゃんとした文ですよ。」



「“古代文字”?レイ、お前、読めるのか?」



俺は、綴られた文字を目で追いながら

最後に書かれた差出人の名前を読み終えた。


そして、俺を見つめるガロア警部に向かって小さく答える。



「…これは、普通の人には読めないですよ。

生意気な“弟”が、“兄”に向けた挑戦状ですから。」



「!」



次の瞬間

俺はパァッ!と魔力を放出した。


俺の手の中で、黒い炎に包まれた手紙が燃えていく。



目を見開くガロア警部に

俺はカタン、と席を立って口を開いた。



「すみません、ガロア警部。せっかく来ていただいたんですが、用事が出来ました。

兄弟喧嘩をしてくるので、店を閉めます。」



「きょ…兄弟?」



俺に続いて席を立ったガロア警部に

ちらり、と視線を向けて呟いた。



「えぇ。腹違いの弟です。

猫っかぶりのクソ生意気な小悪魔ですよ。」



俺の声は酒場に小さく響き

炎で燃え尽きた手紙の端が床にひらひらと舞ったのだった。



《レイside終》