エンプティは、少しの沈黙の後

私に向かって口を開いた。



『“初代”は青年の申し出を受け、いなくなる自分の代わりに、自身の右腕として雇っていた黒き狼に“二代目”を支えるよう、指示をした。

そして、自身の使っていた闇魔法と娘を“二代目”に託し、この世を去ったんだ。』



…!


これが……

闇喰いの始まりと、過去のギルの物語…。


その時

エンプティが低く、どこか面白がるような声で私に尋ねた。



『…どう?

ここまで言えば、“初代”が誰だか、もうルミナには分かるよね…?』



どくん!!



…語られた真実に、きっと嘘はない。


しかし、私の中では色んな感情が渦巻いてせめぎ合い

エンプティの言葉を認めようとすると、それを拒絶するように記憶が混乱する。


私の頭の中に、闇とは一番遠い場所にいたと思っていた人物の姿が浮かぶ。


“初代”とその影を繋ごうとするが、どうしても心が追いつかない。



すると、エンプティがニヤリ、と不気味に笑って口を開いた。



『…まだ、僕の語った真実より過去の記憶を信じるつもり…?

じゃあ、僕が、はっきりと言ってあげるよ』



!!



「やめろ!エンプティ!!」



ギルが叫ぶ。



「ルミナ、聞かなくていい!

早く耳を塞げ!!」



ギルの言葉は耳に届いているが、体が震えて動かない。



“聞かなくてはいけない”

“聞いてはいけない”

“聞きたくない”



色んな感情が私を締め付ける。



『ルミナ。

君の信じてきた人は、“光”と紙一重の“闇”なんだ。』



「ルミナ、お願いだ!耳を塞げ!!」



どくん、どくん、どくん


ギルの声が、だんだん聞こえなくなってくる。


聞こえてくるのは、自分の鼓動とエンプティの言葉だけ。



『今から言う言葉は、紛れもない過去の真実なんだよ。』



「ルミナ……!お願いだ………」



ギルの体を、黒いイバラが、ぐっ!!と締め付けた。


ギルは、短く息をする。


イバラに囚われた彼の、祈りと悲しみのこもった掠れた声が、小さく漏れた。





「……聞かないでくれ………」





静かな廃墟に、エンプティの無情な声が響いた。





『“初代闇喰い”の正体は、ラドリー。

……ルミナ、君のお父さんだよ。』