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《ダウトside》


『エンプティ様。』


カーテンで太陽の光が遮られた真っ暗な部屋に、男の声が響く。


ボスの名を呼んだ、メガネの男性は

くるりとこちらを向いたボスに向かって言葉を続けた。



『例のものが完成しました。

タリズマンへの対応も準備出来ております』



冷たく低いその声に、ボスはニヤリ、と笑うと、メガネの男性に向かって口を開いた。



『…ようやく、姫と騎士を引き離すことが出来るね。

“ラルフ”、今回は君に全てを任せるよ。』



“ラルフ”と呼ばれたメガネの男性は、うやうやしくボスに頭を下げ、低い声で答えた。



『ありがたきお言葉…。

私はシルバーナのような失態は犯しません。必ずや、ラドリーの娘からシンを奪ってみせましょう。』



『あぁ、期待している。

言っておくが、失敗は許さないよ。』



『…承知しております。』



ラルフはそう言い残すと、シュン…!とボスの前から姿を消した。


ろうそくの火が揺らめく暗い部屋で、ボスはくすり、と小さく笑う。



『…さぁ、ギルのお手並み拝見といこうか』



不気味に呟かれたその声は、

悪夢の始まりを告げていた。



《ダウトside終》



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カタカタカタ…



ロディがパソコンを操作する音が、静かな昼の酒場に響く。



市場でルオンと会った日から三日後の今日

レイから頼まれた仕事を終えた私は、窓際の席に座り、頬杖をつきながら外を眺めていた。



どんよりと曇った灰色の空。

今にも空が泣き出しそうだ。



…なんだか、天気が悪いと気分も晴れないな。



そんなことを思いながら小さくため息をつくと、背後から声が聞こえた。



「ルミナ。」


「は、はいっ!!」



慌てて返事をして振り向くと、カウンターからレイがじろり、と私に視線を向けていた。

一瞬、綺麗な碧眼と目が合って、私は急いで視線を逸らす。



すると、不機嫌そうなレイの声が聞こえた。



「お前、俺のこと避けてるだろ。

この前のことはもう気にしてないって言ったよな。」



っ!

ぎくっ!とレイの言葉に反応する。


…だって、レイの顔を見るたびに“過去の失態”を思い出しちゃうんだもの…。

普通でなんか、いられないよ。



“ルミナは、その人のことが好きなんだね”


おまけに、ルオンの声まで蘇ってきて

私の心臓は破裂寸前だ。