「……お、おにいさま」
と言った明日実が青くなる。
稲本顕人か、と貴継は舌打ちをした。
今度、明日実が寝ている隙に着信拒否しといてやろう、と思う。
だが、明日実が動揺を押し隠し、顕人に応対している様がちょっと可笑しく、そのまま眺めていた。
明日実は顕人と話しながら、すすすすっと自分から離れていく。
「はいっ。
……はいっ。
会社は楽しいです」
そんな畏まって話さないといけないような相手と付き合ったって、どうせ上手くはいかなかっただろうに。
……なにがおにいさまだ。
俺には言いたい放題のくせに、と拗ねる。
だが――。
「ふふ。そうですね。
最初だけかもしれません」
自分の手から逃れ、笑って話す明日実は可愛い。
……可愛いじゃないか。
そんな顔をいつも俺にも見せてみろ、と思う。
この俺が側に居るのに。
そいつが、そんなに後を引くほどいい男か?



