顕人と食事に行って、彼が指輪を渡してくれる。

 いや、その通りなのだが。

 現実には、顕人は別の人と結婚し、この指輪は就職祝い……。

 っていうか、その花嫁さんへの指輪を買いに行ったときについでに買ったんじゃありません? これーっ!

 お、手頃な指輪が。

 ま、これでいいか、ってな感じで。

『いいんじゃないですか?』

 妄想の中、顕人の側にはショートヘアで、顔はのっぺらぼうの女が立っている。

 のっぺらぼうなのは、顕人に似合う女というのが、ぱっと思い浮かばなかったからだろう。

 表情は見えないのに、何故か、女が勝ち誇っているように見えた。

 そりゃそうだ。
 おにいさまほどの人と結婚するのだから。

 ……しかし、なんか腹立ってきたな、と思う。

 その女にではない。

 顕人に、だ。

 あれだけべったり一緒だったのに、何故、今まで、決まった相手が居ることを知らせてくれなかったのか。

 そりゃ、こっちも、此処のところ、卒論、卒業旅行、入社の準備とバタバタしてはいたけれど。