最後の食事。
やっぱりそうだよね。
言われなくても分かってたけど、改めて口にされたらチクリと胸が痛んだ。
「もともと春野さんのせいでもないのに、俺のメガネのために食事を3度もありがとうございました。あなたは楽しくもなかっただろうけど、俺はわりと楽しめました」
神宮寺くんが私の手を取り、そっと袋を渡してきた。
彼の手はやけに温かくて、そしてとても大きかった。
楽しめました、ってそれは本当だろうか。
全然楽しそうな雰囲気なんて出してなかったくせに。それは私もそうかもしれないけれど。
なんと言おうか迷っていたら、ゆっくり彼の手が離れた。
「これはそのお礼です。……それじゃあ、さよなら」
別れ際も、彼らしい淡々としたものだった。
サクッと別れを告げた。
これまでならば「また連絡します」と言っていたところだったけど、もうその必要は無いものね。
私はどうしても言葉が見つからなくて結局黙りこくったまま袋を抱いて、立ち去る彼を見送った。
リボンがかけられた袋の中には、水族館で買ったらしいウミガメのタオルハンカチと、ウミガメの小さなキーホルダーと、ウミガメの靴下。
靴下……、ものすごいインパクト。
つま先にウミガメの顔、甲のあたりには甲羅の模様。ものすごい派手。
どこで履いたらいいのよ。
最後の最後まで、彼はとてもマイナーな、だけど強烈な個性を私に突きつけた。