至って真面目な顔で話している彼を、私はひたすら信じられない思いで見つめるしかできなかった。
正気なのか、こいつは?
神宮寺くんは作業着の内ポケットから封筒を取り出して、私に差し出してきた。
中には、何枚かのお札と小銭。
「俺のビール代と、食事分は2人で割った金額を差し引いたお釣りです。あのあと俺もすぐに帰ったので、金額は2380円。つまり、春野さんはあと6120円分を俺にご馳走しないといけないわけです」
「は、はぁ」
「友達とか彼女ならこんなの計算しないけど、あなたは他人だし。一応ちゃんとしようと思って」
「は、はぁ」
「また連絡します」
なんの変哲もない茶封筒を手にして、私は微妙な返事しか出来なかった。
神宮寺くんのマイペースな口調に飲まれて、ついつい抵抗するのを忘れてしまった。
ポーン、という音がエレベーター内に鳴り響き、呼び止める隙間も与えずに彼はさっさと降りていった。
こちらを振り返ることもなく。
再び扉が閉まったエレベーターの中で、今しがた言われたことをしばし考える。
えーっと、つまり?
私はまたヤツと食事に行かなきゃならないってこと?
なんじゃそりゃ!!
まさかの事態に頭が追いつかなかった。



