マイノリティーな彼との恋愛法



定食屋の帰り。
コンビニに寄ってから行くという風花ちゃんと別れて、先に会社に戻ることにした私は、黒のカーディガンの前をぎゅっと合わせながら足早に歩いた。

昼間でもだいぶ冷えてきた。
薄いカーディガン1枚で出歩くには寒い。
そろそろ薄手のダウンあたりを着ないときついかも。


初冬の風を受けつつ、最後は小走りでビルに駆け込んだ。


いつもお昼の時間帯はロビーが混んでいるけれど、今日はなぜか閑散としている。
たまにはこんな日もあるのね、と厚化粧の受付嬢を横目に通り過ぎてセキュリティーゲートもすんなり通った。

ここもこの時間ならば長蛇の列が出来ているはずなのに、今日は誰もいない。


混雑が好きじゃないので、ラッキー!と心の中でガッツポーズしてエレベーターに乗り込んだ。


降りる階のパネルを押して、扉を閉めようとしたらヒョイッと大きな手が閉まりかけた扉の間に差し込まれたのが見えた。
慌てて開くように操作した。


「すみません、ありがとうございます」


そう言いながら乗り込んできたのは、作業着姿の神宮寺くんだった。


げ、と私の顔が歪む。
あからさまに嫌そうな顔をしていたら、彼も同乗しているのが私だとすぐに分かったようで、軽く会釈された。


ゆっくり扉が閉まり、私のオフィスがある階よりもいくつか下の階のパネルを彼が押す。
そのままエレベーターは上昇した。


わりと広いエレベーターの中に、私と神宮寺くんが2人きり。
そして無言。


沈黙を破ったのは彼の方だった。


「この間のお釣り、まだあるんですけど」

「………………お釣り?」

「酔いどれ都の飲み代のお釣り」


一瞬彼の言っていることが分からなかったけれど、話しているうちに思い出した。
そういえば彼との会話でムキーッ!と怒った私は、一万円を押しつけて帰ってしまったんだ。


「いい。お釣りは受け取って。メガネ代ってことで」


素っ気なく返すと、彼は眉を寄せて不満をあらわにした。


「メガネの弁償は食事を奢るっていう話ですよね。現金は受け取れません」

「そんなこと言ったって、お互いに不愉快な思いをしながらご飯を食べるのなんて嫌でしょ?」

「俺は別に不愉快になってませんけど」

「…………は?」

「勝手に不愉快になって勝手に怒って勝手に帰ったのはそっちでしょ。約束は約束なんだから、現金じゃなくてきっちり8500円分ご馳走してくださいよ」