「春野さんは恋愛に対する相手の条件とかあります?こだわりとか」

「こだわり?」


今日の風花ちゃんはやけに私に絡んでくるなぁ。
いつもは全く気にも留めてないくせに。

嫁に行き遅れたアラサー女の意見でも聞いて、参考にしたいとか?
だとしたら悲しいし、虚しい。


「この歳で結婚どころか彼氏もいないとさ、理想だけが高くなるのよ。風花ちゃんほどじゃないけど」

「例えば?」

「年上の包容力ある人がいいとか、俳優の誰々みたいな顔がいいとか、スーツが似合うのは絶対条件とか、無精髭が似合うとか、実はマッチョだとか、タバコ吸う姿が渋いとか」

「…………それってついこの間までドラマに出てたあの俳優さんじゃないですか」

「あー分かる?」

「分かりますよっ」


受話器を磨く私の横で、彼女はエアダスターでパソコンのキーボードのホコリを取りながら笑っていた。
そして笑いながら、サラッと言ったのだ。


「そっかぁ、結婚しないまま春野さんくらいの歳になると、理想がエベレストみたいに高くなるんですねぇ」


エ、エベレスト???


「そ、そんなことないよ?あくまで理想は理想だからちゃんと現実と区別してるつもりで……」

「でも彼氏いないですよね?」

「うっ」


痛いところを突かれた。
そんなに理想を高く掲げてたつもりなんかなかったけど、実際そうなのか?

恋愛の「れ」の字も掠らない生活をしばらく送っているので、それすらも怪しい。


「恋愛は一瞬のときめきとフィーリングですよ、春野さん」

と、どっちが年上なのか分からない発言をした風花ちゃんが、ふふふと勝気な笑みを浮かべた。


「他の人に同じことされてもなんとも思わないのに、その人にされたらドキッとする。それは、好きのしるしです。理屈じゃないんです」

「………………風花ちゃん。シンガーソングライターになったら?」

「あはは、ウケる〜」


ティーン世代のカリスマシンガーが歌う歌詞に出てきそうな言葉を言った風花ちゃんを、少しだけ面白いかもと思った瞬間だった。