マイノリティーな彼との恋愛法



この時の私の顔は、たぶん相当間抜けなものだったと思う。目は丸くなっていたし、口もパカッと開いていたんじゃなかろうか。

てっきり宅配のお兄さん(おじさんかもしれないが)が現れると思っていたので、動揺のしすぎで持っていた印鑑を落としてしまった。


カンカン!と音を立てて玄関の床に叩きつけられた印鑑は、ころころと外へ転がっていき、神宮寺くんの足元へ。彼の革靴にコツンと当たったところで骨っぽい指がその印鑑を拾い上げる。

持ち上げるかどうかのところで、やっと自分の状態を把握した私は慌ててドアを閉めようと力いっぱいドアノブを引いた。

すると、どうしたことかドアが閉まりきらないところで止められた。


「え……?な、なに!?」


アタフタして下を見ると、用意周到に神宮寺くんの靴がしっかりとドアの間に差し込まれていて、そこで止められていたのだ。

ヒィ!と悲鳴を上げると、ヤツは少しだけ開いた隙間からニヤリと笑った。


「もう春野さんのやりそうなことはだいたい予測できるようになりました」

「な、何言ってんのよ!」

「いい加減中に入れてもらえませんか」

「無理に決まってるでしょ!私、いま完全にスッピンなのよ!しかも風呂上がりでヨレた服着てるし、色々とマズいんだってば!」


化粧水も塗ってないツルツルしてない肌も見せたくないし、ゆるゆるだるだるになったスウェットも見せたくない!
もう数十秒見せてしまったかもしれないけど、これ以上は耐えられない!


「いて、いててて。怪我した手首が痛いです」


ドアの向こうから神宮寺くんの痛がる声が聞こえて、気を取られて力を緩める。


「だ、大丈……」

「はい、大丈夫です。完治してますから」


緩んだ隙間を縫うみたいに、するりとドアを開けて入り込んできた神宮寺くんは狭い玄関で勝ち誇ったように私を見下ろした。

くそぅ、騙しやがった!

再びヒィ!と悲鳴を上げて、両手で顔を覆う。


「手を下ろしてください。風邪は良くなりましたか?」


頑なに顔を隠している私に、思いのほか優しい声色で尋ねてきたヤツの言葉を聞いて、なんで風邪引いたの知ってるの?と指の隙間からのぞき見た。