机の上に置いていたサンドイッチのビニールをピリピリ剥がしながら、不満げに口を尖らせて風花ちゃんが首をかしげる。


「もったいない。あんなチャンス二度と無いですよ?もしかしたら結婚だって出来たかもしれないのに。イケメンですよ?御曹司ですよ?将来を約束されたようなもんですよ?」

「うん……それは分かってる。でもどうしてもダメだったの」

「何か嫌なところ見つけちゃったとか?」

「そうじゃないの。私の問題」


お弁当の海苔を箸でつまむと、かつお昆布が白ご飯の上に敷き詰められている。ごまの香りも漂ってきて食欲をそそられる……はずなのに。
今の私にはあまり美味しそうに思えない。


「好きな人がいるの、少し前から。だから断った」

「す、す、好きな人!?春野さんに!?」

「そんな驚かなくたって」


だってずっと干からびた生活送ってましたよね?という確認なのか貶しなのかよく分からない言葉を風花ちゃんに浴びせられたが、そこはしっかりと無視。

そして、一番大事なことをつぶやいた。


「一大決心したのよ、イブの夜に。柏木さんのことは断ったし、好きな人に想いを伝えてみてみるか〜って。私だってアラサーだよ?三十路前だよ?恋愛なんて数年ぶりだよ?でも勇気出したのよ、こんな私でも」

「ふむふむ、それで?」


私の話に真剣に耳を傾ける可愛い可愛い後輩は、続きを聞きたくて仕方がないようだ。
すっかり敬語など抜け落ちて、友達のような口調へと変わっている。

この際プライベートな話なので、彼女の言葉遣いなんてこっちも気にならない。


焦らして話すのも悲しいので、サクッと結論を話す。


「結果としては、相手には彼女がいたの。電話したらね、ドラマみたいに女の人が出てさ。その瞬間底なし沼に沈んだよね」

「ヒィ〜!本当にそういうことってあるんだぁ〜。それは凹む〜」

「うん。凹んで凹んで、そして成れの果てが今日の姿ってわけ」

「うわぁ〜、ご愁傷さまです〜」

「人を死人みたいに言うんじゃないっ」


同情たっぷりの目をしながら私に向かって両手を合わせている風花ちゃんを、キッときつく睨んでやった。


「20代最後のクリスマスは人生最悪のクリスマスだったわ。以上、私の報告。そっちは?朝からニヤニヤしてたけどうまくいったのよね?」

「え〜、春野さんが悲惨な目に遭ったのにノロけていいんですか?」


得意の上目遣いでチラチラと機嫌をうかがってくる。
イコール、彼とはうまくいったようだ。