私だけが気まずくなっていると、神宮寺くんはおもむろにメガネを外し、曇りかけていたそれを布で拭いている。
冬の時期はメガネかけてる人って大変だなぁ。
寒いところから暖かいところに来るとメガネが曇るから、その都度拭かないといけないもの。
彼の手元を見ているうちに、思っていたよりも骨っぽい手の甲や、浮き出た血管を知らず知らずのうちにガン見していた。
うわー、この手。すっごい好き。
私って手フェチだっけ?
…………今「好き」とか思わなかった?
ちょっと待って、しっかりして私。
「そんなにメガネかけてみたいですか?」
私の思惑とは全く違うことを考えた神宮寺くんが、持っていたメガネを差し出してくる。
あなたの手が好き、と思ってたなんて口が裂けても言えない。
「違う違う!確かにメガネとは無縁だけど」
「どうぞ」
「だから違うって言ってるでしょーが」
文句を言った次の瞬間、ヤツの手によって無理やり黒縁メガネがかけられた。
視力検査ですこぶるいい結果を残す私に、度が強いメガネが合うわけがない。
視界がぼやけて、ぐらりとした。
「うぅ……相当目が悪いのね、神宮寺くん」
クラクラした頭でつぶやくと、何故か彼は「あー、やっぱり」と妙に納得したような声を出した。
「なにが、やっぱりなの?」
「似合いますね、メガネ」
「…………は?」
「ちょっとエロい」
グワッと頭が沸騰。
むしり取るようにメガネを外して、ヤツに押し付けた。
「この変態メガネッ」
「冗談ですよ。春野さんって本当に柔軟性ないですね。身につけないとダメですよ」
「ほっといてよ」
メガネをかけ直した神宮寺くんが、睨みつける私に向かって淡々とした口調で
「そんなんじゃ柏木さんと結婚した時にあっちの家とうまくやれませんよ。大手ハウスメーカーですからね、彼の実家」
と言った。
は?結婚?
「結婚って……なんで急に?」
「例えばの話、です。この前会社の飲み会で、結婚願望があるんだって柏木さん本人から聞きました。だから春野さんはあの人に近々結婚を前提に交際を申し込まれますよ、きっと」
なによ、それ。
なんで勝手に交際を申し込まれるだとか、結婚するだとか決めつけるのよ。
まるでそうすればいいって思ってるみたい。
それまで飲んでいた相当量のアルコールが、ぐるんっと一気に体中を駆け巡った。



