「バカリの泣き虫。」
「望果に言われたくない。」
その手を取って立ち上がりながら、泣き笑いする望果に釣られて笑った。
望果はなんでもお見通しだね。
「ねぇ、望果。」
「ん?」
「―――本当に無駄じゃ無かったよ。」
だって、陸斗にひどくされなければ私この学校に来なかった。
この学校に来なかったら望果には会えなかった。
望果に会えなかったら、私今こんなに笑えてた?
答えはNO。
どんな辛いことだってきっと人生のスパイスみたいなもの。
辛いことがなければ、こんな幸福なことには出会えない。
幸福が“幸福”だとも気付けない。
“辛い”と“幸せ”が似てる字だなんて、よく言ったものだ。
あのときあんなに大きかった石の壁は、
気付いて振り返るとまるで小石のよう。
そう気付くことは、大切で、簡単だけど難しい。
不器用な私には、“望果”が必要不可欠だったのだ。
ありがとう。
もう一度伝えると、望果はにやりと笑う。
「でもさー、アホバカリ?」
うわ、なんか進化した。
そう思ったのに、あまりに企みを含んだその笑みに顔が引きつり、
声なんて出てこない。
「私だけじゃないっしょ?」
「え?」
「この学校に来て良かった理由・・・もう一個あるんじゃないの?」

