「そして何気なしに会話してたら家に招待してくれて、沙耶の部屋に入れてくれたの。まだ綺麗に残ってた」


「そこで漁ったんだな、沙耶の部屋を」


「漁ってないよ。机の上に置いてある一つの写真たてを見た時に違和感を感じたの。これ、一枚じゃないって」


梶谷さんと二人で中学の入学式の時に撮った写真だった。


「二枚重なってるって思ったの。これは女の勘なんだけど」


沙耶のお母さんに許可を得て、私は写真たての中身を見た。


私の勘は当たっていた。

やっぱり隠れるようにもう一枚の写真が重なっていた。


やっと見つけた。沙耶の彼氏を。


「デートの時に撮った写真だったのかな?二人ともオシャレな格好してたし」


「沙耶の奴、そんな事してたのか…」


参ったなぁ…と彼は晴天の春の空を見上げながら呟いた。


視界には桜がひらひらと舞っている


「隠し通すのって辛いからね。でも、それだけ好きだったんだよ」


「ありがとよ」


これを梶谷さんは知っていたのかな?

それとも…
沙耶だけの秘密だったのかな?


「ねぇ、聞いてもいい?」


「何?」


「沙耶を殺した三人を死に追い詰めたのは、貴方なの?」


「………………」


「梶谷さんから、尾崎さんのトドメを刺したのは貴方だって聞いてる。だから後の二人も…」


「…………どうだろうな…」


シラを切るつもりか、はたから言うつもりも無いのかもしれない。

だけど、直ぐに否定せず沈黙があったから肯定なんだろうな。


今の彼は、無愛想だけど微かに穏やかで、でも哀しげで、言葉で表すには難しかった。


「復讐して、気が晴れた?」


「さぁな…」


気が晴れたようには見えなかった。

寧ろポッカリ穴が空いたように見える。


本で読んだ事がある。

憎しみや恨みが強ければ強いほど復讐を果たした後、後悔はしていなくても、どうすればいいかわからなくなる…と。


梶谷さんはどうなのかな?

復讐を果たしても沙耶は戻ってこないし何も変わらない日常が過ぎていくだけ。


「女は怖いな」


「え?」


「くだらない嫉妬で人を簡単に殺すんだからさ。初恋とか俺が沙耶のせいで変わったとか意味わかんねぇ」


尾崎さんの遺書は無い

でも二人には遺書がメールの形で私達クラスメイトに送られてきた。


沙耶を殺した理由も含めて。


「なぁ、日比野」


「ん?」


「十五才の犯罪は罪に問われるよな」


「ただ顔や名前は公表されないけど」


……あれ?

どうして彼はそんなことを今聞くの?


「日比野、背負ってくれないか?」


「へ?」


「別に許す気ないけど、奴らの遺書はあるんだ。だから沙耶の部屋から俺との写真を警察に届ければ、少しは証拠になるだろ…」


「…っ…まさか…」


「自首だと軽くなるからな、罪が」


「何で、私に?…」


声が震える…


「終わらしたかったんだろ?お前は」


「……それは…」


「俺は沙耶の為とか言って、結局は自己満足に過ぎなかったんだ」


彼はベンチから立ち上がって私に背を向けた。


「後はよろしく。あと……背負わせて悪いな、日比野」


立ち去り際に聞こえた彼の謝罪

やめて、謝らないでよ。


* *

私、今頃わかったよ。

終わらせたとしても誰も救われてない

救われないって事が。

* *


fin