壊れて今まで鳴らなかった時計塔の鐘が鳴ってから数日後

* * * *

明るく元気で分け隔てなく皆に接していた沙耶を嫌う人なんてクラスの中ではきっといなかっただろう。


でも私は違う

私は沙耶が大嫌いだった。


入学した当時はクラスに一人はいそうな良い人ってぐらいの認識だったけど、日が経つに連れて私は沙耶の声が恐ろしく感じるようになった。


本人や親友であろう梶谷さんは無自覚だったかもしれないけど沙耶の声は癒されるような優しいボイスで、みんなそれに洗脳されてるかのように思えてきたから。


だから、私は沙耶が大嫌いだった。

だけど、口にすることは出来ない。


クラスで浮く事がないように表向きは沙耶と仲良く楽しく話していたが本当は違う。


『こんな奴大嫌い』と心の中で何度も呟いていたし、沙耶だって表向きは良い人を演じて裏では陰口を言っているような性格かもしれなかったから、お互い様だと思っていた。


実際、女子は噂や悪口を言ったりするのが大好きだから沙耶もその一人のはず。


この女は演じているんだ。

芝居なんだ。


家に帰れば軽蔑するように私は入学式で撮った写真に映る沙耶を見ていた。


クラス替えが無いから三年間顔を合わすのは嫌だったけど三年我慢すればおさらば出来る。


私は沙耶が大嫌いでも、けして口にしないと決めていた…。

でも、口にしたいほど沙耶を嫌い、憎む程の事実を私は耳にした。


それは中学二年生になった時。

私は好きな人とか家族にも黙ってしたから悪気はなかったんだろうし自業自得なんだけど、お母さんから“彼”が沙耶と付き合っている事を聞いた。


その瞬間、目の前が真っ暗になった。


彼と私は幼馴染みだった。

親同士が仲良くて幼稚園の頃から一緒だったし家も近かった。


だから何?って思うかもしれないけど私は彼の事が好きだった。

誰よりも彼の事を理解している。


今では女子から人気を得ている彼だけど小さい頃は“何を考えてるかわからない”と言われていて彼に友達と呼べる人は私しかいなかった。


だからこそ彼とって私は特別なはずだし私にとっても彼は特別だったはずなのに中学で出会った沙耶に奪われた。


お母さんが言うには彼のお母さんが息子の電話をしているところをたまたま見かけたらしくて、その時に『沙耶』と微笑みながら呼んでいたらしい。


彼が微笑む?

彼は、ぶっきらぼうで根は優しいけど微笑みなんてめったに見せなかった、私にも見せなかった!!


それなのに!!

ただが中学で出会った沙耶に幸せそいたな微笑みを見せるなんて…。


彼は変わった。

沙耶のせいで変わった。