「おい、どこに行くんだよ。おい!」

スタスタと真っ直ぐに歩く凛子を追いかける。

逃避行しようと言っておきながら、やつは一切目的地を言わない。まあ、あるかどうかも分からないが。

やがて凛子が歩く道が駅に通じていることに気づいた。
まさかと思ったが、駅に入っていくやつを見て俺の疑念は確信に変わっていった。

「おい、どこに行くつもりだ」

呼びかけの声にも反応しない。

凛子は電光掲示板をちらりと見あげた。俺もつられて見上げる。今日のダイヤは終電がひとつ残っているだけだ。

それから制服のポケットからパスケースを取り出すとしっかりした足取りで改札をくぐる。

終電に乗ってどこかに行くつもりなのか。どうやって家に帰るつもりなんだ。

そんなことを思いながら、俺もパスケースを取り出して慌てて追いかけた。


終電を待つプラットホームには帰路につくスーツ姿のサラリーマンの姿しかなく、制服姿の女子高生と適当なTシャツを着た男子高校生の二人組は明らかに目立っていた。

実際じろりと視線を向けられるのが分かるのだが、凛子はそんなことなど一切気にとめていない様子で、真っ直ぐな目で終電を待っていた。

やがて来た終電に乗り込んだものの、サラリーマンの姿しかなかった。

凛子は出入り口の近くに立って、移りゆく窓の外を見ていた。俺はこいつの考えが分からなかった。