「このひとが見つけてくれた」


あいつは振り返って俺を指さす。

親に会えて安心しきった表情で。

あいつの親は俺を見ると「まあ、すみません」と近寄ってきた。


「あ、いえ…。迷子になってるみたいだったので」

「そうだったんですか!」

ありがとうございます、という表情は、最近ずっと見てきた悲しみに暮れる表情でもなくて、それを必死に隠そうとする表情でもなくて、いつもの明るいおばさんだった。

それはとてもすてきな笑顔で、あいつの笑顔はきっとおばさんに似たのだろうなとも思う。

だけどもうきっとこれから先、おばさんのこの明るい笑顔は、もう見れないんだろうなと思った。

おばさん、きっとあいつの死を、いつまでも、それこそおばさんがこの世を去る時も、去ってからも、引きずり続けるんだろうから。

きっとこれからは悲しみを隠したような、疲れたような、そんな笑い方で、感情を隠すように笑うんだろう。

「いえ、無事で何よりです」と俺は答えながら、そんなことを思っていた。

「ほら、アカリもありがとうございましたって言いなさい」

おばさんに促されて「ありがとうございました」とあいつは言う。

「どういたしまして。もう迷子にならないようにね」


次の瞬間、俺の表情は固まった。


「なあ、アカリ、おまえどこいってたんだよー」


ぎょっとした。

過去の、この時間の、俺の声。

まずい。この場にいたら、まずい。

なにがまずいのかはっきり分からないけど、本能的にまずいと思った俺は「じゃあ」とろくに挨拶もせず背を向けて足早にその場を去った。