お兄ちゃんは心配しすぎなんだよ。

私だって高校二年生になったんだから、いい加減子ども扱いはやめてほしい。


若干過保護さをウザく感じながら、朝食を食べ終えた。カバンを片手に玄関で靴を履く。



「行ってきまーす」

「琉美、本当に気をつけろよ!」



玄関の扉を開けてもなお、お兄ちゃんは念を押すようにしつこく言ってくる。


私は何も言わずにひらひらと手を振って、家を出た。



歩き慣れてきた通学路の途中に、遅咲きの大きな桜の木があった。

思わず足を止め、見とれる。


ひらひらと舞う桜の花びらが、手のひらの上に乗る。



「綺麗だなぁ……」



桜は、どこか儚くて。

でもその中には、真っ直ぐさや可愛らしさが秘めてあって。


心の内側まで魅了する。



風が吹いた。

手のひらの上の花びらが、天高く上がっていく。


私はなんとなくそれを追いかけた。


ドンッ!

と誰かに肩をぶつけてしまう。



「ご、ごめんなさい……!」



咄嗟に謝って、ぶつかった相手を視界に捉える。


あ……。

と、声を漏らしかけて、慌てて口をつぐんだ。


同じクラスの、椎本 怜司(シイモト レイジ)くんだ……!



「別に」



椎本くんはぶっきらぼうに応えると、そのまま何事もなかったように歩き出した。