「あ、矢野!」
休み時間。洗った手を自然乾燥させながら女子トイレから教室に戻っていると、瀬川先輩に声をかけられた。
「あれ、2年の階にいるなんて珍しいですね!」
「ちょうど矢野のクラスに行こうと思ったんだ」
なにか私に用事かな?
もしかしてラーメンの約束?今日はラーメンの気分じゃないけど……まあ、普通に食べれちゃうな。けっこう人のお腹に合わせられるタイプだし。
「週末の夏祭り一緒に行かない?」
「え?」
あまりに想像と違っていたから思考が止まってしまった。
これはみんなでってこと?バスケ部全員でってパターンでしょ?なんて、軽々しく考えようとしたけど。
瀬川先輩の顔はすごく恥ずかしそうにしていて、ふと志穂の言葉が脳裏をよぎった。
――『葉月のことが好きだから遊びに誘ってるんだよ?学校の後輩じゃなくて女の子として』
意識した途端に心臓が爆音のようにうるさくて、こんなの初めてだ。
ど、どうしよう。どうすればいいの?
恋愛なんて知らないし、瀬川先輩のことだって〝先輩〟っていう認識だったのに。
「返事は急いでないからゆっくりでいいよ。気が向いた時にラインで送ってくれればいいからさ」
万が一、断った時でも気まずくならないように返事のハードルを下げてくれてるって分かる。
結局私はそんな先輩に甘えて頷くことしかできなかった。



