彼に初めて会ったのは、忘れもしない去年の夏、私がまだ高校三年生のときのことだった。




 雲は薄く、空は青い。日はまだ傾きかけたばかりだというのに、私は降られている。

 高く生うる木々の隙間から降るそれは、耳の奥でさんざめいて渦を巻くようだ。

 ああ、これは音の白雨だ。

 四方から一斉に降り注ぐ蝉の声は、耳から直接ぐらりぐらりと脳を揺らし、私は音の奔流に押し流される。

 蝉たちが身を置く木々は、私が両の手を回したとしても全く及ばない。

 杉や松、竹などの木々が青々と生い茂って日差しを遮り、岩に苔むす森は暗くさせていた。

 草根から青く匂い立ち、生き物の息遣いが耳元に聞こえるようだ。