大ちゃんのお父さんの記憶は、5歳の夏の日のことが鮮明に残ってる。

あの日は仕事が早く終わっていて、大ちゃんのお父さんは近所の人たちと一緒に縁台を出して飲み会をやってた。


夏真っ盛りで夕陽に染まる中、ひぐらしの鳴き声がうるさくて、ジリジリと地面からの熱は湧き上がってて。

その地面に打ち水をして縁台を置き、将棋をやる。

盤を囲む大人たちの周りには枝豆やサキイカが置かれてあって、私と大ちゃんはコッソリそれを目当てに忍び寄った。



「こら!ツマミを取りに来るな!」


将棋の駒から手を離し、ペチンと頭を叩かれた。



「いいじゃんか、ケチ」

「おじちゃんお願い。イカ一本だけちょうだい」


大ちゃんのお父さんは私の言葉に呆れながらも笑い飛ばした。


「しようがねぇな。1本だけだぞ」


太い指がイカを摘んで渡してくれる。


「ほら、大輔も」


口の中にイカを放り込み、手には枝豆を握らせる。


「向こう行ってお母さんにスイカ切ってもらえ」


大人の時間を邪魔するなといった感じで、体良くあしらわれた記憶。


アル中になる前のおじさんは優しかった。
仕事熱心で手早くて、いい配管工だという噂が流れていた。


そんなおじさんが酒に溺れ出したのは翌年くらいからだ。
新築の家を建てる人が減って、配管工事自体の需要が少なくなってきたんだ。