個人的な意地みたいなものだった。
そんな理由で秘書の面接を受けに来たのか…と、呆れられても仕方のないものがあった。



「真面目ですね」


主人は呆れもせずそう言った。
じっ…と履歴書を眺め、それから私を振り返った。


「採用しましょう。秘書の経験はなくても積めばいいことだし、貴女のような人の方が好感が持てていい。
幸いなことに秘書はもう一人います。仕事はその男から習って下さい」


じゃあ…と言って立ち上がった側から気を失いかけた。
慌てて近寄る私に「大丈夫です…」と弱々しい声でことわった。


そんな雰囲気の顔色にも見えなかった。
体の具合でも悪のだろうかと思っていたら、働き始めて教えられた。



「この春に奥様が亡くなったんです」


第一秘書の宇田川さんはそう言って事の経緯を説明した。


社長の奥様が体調の異変に気づいて検診を受けたのは1年ほど前で、既に転移の可能性も低くない状態まで侵されていることがわかった。

仕事を休んで治療に専念するよう社長からも勧めたが、丁度会社の規模が大きくなる時期と重なり、自らそれを拒否した…ということだった。

結局、手の施しようもなく亡くなってしまわれたのが2ヶ月前で、大した孝行もせずにいたことを社長がとても気に病んでいる…と話してくれた。



その経験があってか再婚した今も、主人は「家族というものは顔を付き合わして生活をするもんだ」と言い張っている。