ふと気づいてみると、果てしなく続く深海のような暗闇にいた。

 一体どれくらいのあいだこうしているのか。
 
 七瀬は遠浅な浜辺に打ち寄せる波のようなまどろみに揺られていた。眠りと覚醒を繰り返した結果、ようやく自分が真っ暗な場所にいることを認識しつつあった。

 ここがどこで、何故こんな状態になっているのか。

 何も分からない。栞との大ゲンカの後、ふっと意識が遠くなって意識が戻ったと思ったら自分は暗闇の中にいて、その直後何者かによって襲われた。意識が戻ってみれば、既にこの状態だったのだ。

 けれども、七瀬には全くと言っていいほど現実感がなかった。自分の置かれた状況をどこか他人事のように捉えていた。これほどの状況にありながらなお七瀬の意識は別のところにあった。

 ──何でこんなことになっちゃったんだろう。
 
 重苦しい後悔が、七瀬を暗闇の奥底深くへ沈めている。
 
 まさかあんなに怒りを露わにするまで栞を怒らせていたなんて思いもよらなかった。自分の我がままと無自覚のせいで、深く傷つけてしまった。
 
 生徒会長は、呪いに蝕まれ短い命を終えようとしている。
 
 優馬のことも散々振り回した。いいようにこき使った挙げ句人のよさにつけ込んで甘えてしまった。にもかかわらず龍神を見つけることはできなかったし、優馬が守ろうとしていたオカルト研究会も廃部にされてしまう。
 
 当然、正明が信じていたという龍神の存在も証明できずじまい。その上龍神はこの町を呪う脅威になり果て、今やこの町は風前の灯なのだ。
 
 目標としたものは何一つ成し遂げられないまま、結果的に周りの大切な人たちを踏みにじり傷つけただけだった。

どこで道を間違えてしまったのか。あるいは最初から全てが間違っていたのか。もしかしたら自分は存在してはいけなかったのではないか。

 果てることのない堂々巡りがずっと続いている。

 一方で自分が助かるかどうか、などということにはもはや何の興味もなくなっていた。ただ何かをどこかへ忘れてきたような引っ掛かりが心の中に微かにあった。

 引っ掛かりの正体が何であるか、七瀬は気づくことができない。

 そうこうしているうちに、七瀬の意識は再び遠のいていった。