「話なら聞くぞ?」

「なあ、ジジイ」

「ん?」

「ジジイならどうする。惚れた女が……生き人なら」

俺の問いにジジイの眼が少し丸くなり、その後すぐ、いつもの糸のような形に戻った。

「その娘とは……」

「偶然ここに来た娘だ」

「……そうか」

ジジイは何か思うところがあるらしく、三途の川の滑らかな水面に視線を落とし、柔らかい笑みを見せた。

「お前の一番欲しいものはなんじゃ?それを考えたら簡単じゃろう。なんにも難しくはない筈じゃ。身を焦がすようなその想いの果てにあるものは何じゃ?その先に、お前は何を見ている?」

俺の、一番大切なものは……。

俺の見ているものは……。

そうだ。

俺のこの想いの果てにあるものは。

「ジジイ」

「……」

俺は、大きく息を吸うと、再び船頭のジジイを見つめた。