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「なんじゃ、浮かぬ顔をしおって」

死出の山の麓から賽(さい)の河原を抜けて、三途の川沿いに足を進めていると、しわがれた声が俺を呼び止めた。

見ると、六文船のジジイが細い眼をいっそう細めて俺を見ていた。

「閻魔が色事で悩むとは」

「るせぇ」

六文船のジジイは父上の親友らしい。

「図星か。可愛い奴よのう」

俺は六文船のジジイが好きだった。

ジジイは神通力の達人で、どんな術でも使えると父上から聞いた事がある。

だが何故か三途の川の上では神通力が使えないから、公平な仕事が出来る筈だと、父上が船頭を任せたらしい。