「父上は……今日も審判でお忙しいようです」

オウムのように同じ事しか答えられない俺に、母上はいつも微笑んでいた。

……母上を避けていたクセに、死んでから悔やんだって遅ぇんだよ。

だから俺は、母上が死んでからも蘭を拒めない父上に苛立ち、そんな父上から蘭を奪ってやりたかった。

蘭は『足抜け』に失敗した花魁の成の果てだ。

アイツは親子程歳の離れた米問屋の主人への『身請け』が決まっていたが、恋仲だった男と遊郭を出る約束をし、楼を抜け出たところで楼主の手下に捕まり、酷い折檻の末命を落とした可哀想な女だった。

人は死ぬと十王審査の結果、六道の内のいずれかに行き先が決まるのだが、父上は蘭の行き先を決めず、宮殿に置いた。

俺はますます気に入らなかったが、蘭を不憫に思ったのも確かだった。

それに……蘭は可愛かった。

蘭さえ父上より俺を選ぶなら、アイツを俺の屋敷に住まわそうと本気で思った。