閻魔が端正な頬を傾けて、私にキスしようとした。

「こわいよ、閻魔」

私にこれ程までに腹を立てている閻魔に成す術がなくて、私はシャクリ上げた。

閻魔が動きを止める。

私は泣きながら閻魔を見つめた。

「もういいよ、閻魔。蘭さんのところに戻って。私を守らなくていいから」

閻魔は私を組み敷いたまま、唇を引き結んだ。

「自分だけ恋人が近くにいて、閻魔に申し訳ないって思ってる。でも、ロイが好きなの。再会してからすぐに好きになったの。だからこの恋を邪魔しないで。私も閻魔を邪魔したくない。閻魔の幸せを祈ってるから」

言い終えた私をしばらく見つめた後、閻魔がゆっくりと身を起こした。

「……じゃあな」

「閻魔」

私に背を向けた閻魔の身体が、溶けるように消えた。

「閻魔、閻魔」

慌てて起き上がり、私は家中を探した。

閻魔はどこにもいなかった。