不機嫌なキスしか知らない



「や、ひろ、っ」


「黙って」




酸素を求めて開けた唇の隙間から、舌が侵入してくる。


やだ、とか、ひろ、とか。
そんな言葉は全部紘の唇に飲み込まれて、声にならない。



甘くて、溶けそう。

ジンジン痺れてくる胸の奥。

熱くて、火傷しそうな舌。



やっと解放された時には、頭がクラクラしていた。



「紘、」

「いい顔」

「……紘、今日は不機嫌じゃない」

「は?」



紘の顔は、いつもと違って。

なんだか優しくて、甘かった。




「いつもキスする時、不機嫌だから……」



「……どれだけキスしてもアイツのことが好きなんだなって思ったら、不機嫌にもなるだろ」




「え……」