不機嫌なキスしか知らない




「……ごめん、泣くほど嫌だったって、気付かなかった」



紘の傷付いたような、掠れた声がやけにクリアに聞こえた。


諦めたみたいな顔をして、紘は私に背を向ける。



「ごめん、迷惑かけたな」




それだけ呟いて、遠くなる紘の背中。
程よく筋肉のついた大きな背中は、いつもよりずっと小さく見える。



「ちが、」



違うの、って言おうとして、言葉を止める。


否定して、何になるっていうんだろう。

このまま距離が遠くなった方が、いいのに。


それなのにどうしてこんなに寂しいんだろう。

戻ってきて、振り返って、嘘だよって笑って。


もういっかい、不機嫌な顔でキスしてよ……。