不機嫌なキスしか知らない



「いいじゃん、一緒に帰れば」



私たちのやりとりを黙って聞いていた杏奈がびっくりするようなことを言うから、え、と声が漏れた。



「用事が本当にあるなら私が代わってあげる。藍沢くん、一緒に帰ってあげて」

「ちょっと杏奈、何勝手に……」

「サンキュー。じゃあそういうことで、放課後な」



にっこり笑って私を見た紘は、次の授業の教科書を取りにロッカーに行ってしまった。



「杏奈、何で……」

「だって紗和、藍沢くんと喋りたそうな顔してたから」

「う、」

「何強がってるの?一緒にいたいなら一緒にいればいいじゃん」



そんな簡単なことじゃ、ないんだよ。

私だって紘と帰りたい。


私が好きそうだからってチョコ買ってきてくれたの、嬉しい。

一緒に帰ろうって言ってくれて、嬉しい。


だけど紘の本命が麗奈先輩なら、そんなの全然嬉しくない。