不機嫌なキスしか知らない




「まあ、あんな男どこがいいのか俺にはわかんねえし、早く忘れれば?って思うけど」



紘は麗奈先輩と視線を合わせたまま、優しい声で話す。



「麗奈にはもっといい人がいるよ」



その声に、愛しさとか、優しさとか、切なさとか、全部が詰まっているような気がして。

麗奈、って呼ぶ声を、もう聞きたくなくて。

なんだか私が泣きそうになってしまった。



……紘のいちばんは麗奈先輩なんだって、思い知らされた気がした。




「紘……っ!お願い、慰めて」




麗奈先輩は、紘の隣に私がいることは忘れているみたいで。


綺麗な爪の光る手を伸ばして、紘の頬を包み込む。



「遊んで、私と」


麗奈先輩の濡れた瞳が、紘を見つめる。

私は無意識のうちに唇を噛んでいて、強く握った拳が痛い。