不機嫌なキスしか知らない



「彼、最初から私なんて遊びだったって。わかってたけど、でも……っ」



嗚咽のせいで聞き取れないところもあるけれど、麗奈先輩は紘を見て、ストッパーが外れたように泣いて、話し始めた。




「私とデートしてる時に彼が、他の女の子と電話するから……だからつい、私だけ見てって、言っちゃって……」



目を押さえながら涙をこぼす麗奈先輩の爪には綺麗なネイル。

きっと、今日のデートのために塗ったんだろう。




「そうしたらもう、いらないって……面倒くさい女は嫌いだからって、言われちゃった。彼のそばにいたかったら、束縛なんてしちゃいけないって、知ってたのに……っ」




いつも余裕な麗奈先輩。
紘のこと、簡単に弄ぶ麗奈先輩。

そんな彼女の、弱い部分を見てしまった。
紘が言っていたのはこういうことだろうか。

涙に濡れて、震える彼女のこと、守りたいって思ったんだろうか。