不機嫌なキスしか知らない




「大丈夫?」




ゆっくり麗奈先輩に近付いた紘は、しゃがみこんで、麗奈先輩と視線を合わせて問いかける。


その優しさに、苦しくてうまく息ができない。




「彼に、捨てられちゃった……っ」




ぽろぽろと頬を滑る涙が、きらりと光る。
紘のピアスが光るのと同じくらい綺麗だ。


彼って、あの年上の、本命の彼氏だよね。
捨てられちゃった、って……。


私も驚いたけれど、紘も少し驚いたように視線を泳がせた。