不機嫌なキスしか知らない




『すごい!サッカー部のエースをどんどん追い上げていく藍沢くん!イケメンな上にこんなに足が速かったんですね!』




放送部の実況も興奮している。


他にも走っている人はいるけれど、完全に圭太と紘の一騎打ち。



「紘格好良すぎ!」
「普段ダルそうな人が本気になってるの、ギャップ萌えなんだけど!」

なんて女の子たちの黄色い声も聞こえる。




「頑張れ……」





思わずつぶやいた私に、杏奈がにやりと笑って聞く。


「今のはどっちに言ったの?」




真っ先に頭に浮かんだのは、青いハチマキと黒い髪。


そしてキスする時、不機嫌な瞳で私を見つめてから、ゆっくり伏せる長いまつげ。


……だけどそんなことは絶対に言えなくて、


「圭太に決まってるでしょ」


と目を逸らした。