不機嫌なキスしか知らない




「もうすぐ圭太、他の女の子の彼氏になっちゃうんだ……」



言葉にした瞬間、急に現実味が出てきて、じわりと目の奥が熱くなる。


……昨日は、泣かなかったのに。


圭太の前でも、ひとりになっても、泣かなかった。

なのにどうしていま、こんなに泣きそうになるんだろうか。

どうして紘の前では、素直に涙が出てくるんだろうか。




紘はそんな私を見て、何も言わずに。
ぽん、と頭に手を置いて、優しく撫でてくれる。


その大きな手のひらが、温かくて、やさしくて。


ぽろぽろと頬を涙が伝っていくのは、そのせいだ。


いつも不機嫌なくせに、急に優しくなんてするから。



最低なくせに、ずるいから。


だから私は何されたって、紘のこと嫌いになれないんだよ。