電話を終え、アルバイト先に行き、終えて帰宅する。
「あれ、お父さんまだ起きていたんだ」
「ああ、仕事が残っていたからな」
僕が記憶を失う前は仕事人間だったと言うお父さん。
だけど最近では家によくいるようになった。
「そうなんだ。夜ご飯は?」
「まだだ」
「じゃ、今から作るから一緒に食べよう」
夜中に食べても良いよう、消化に良いご飯を作り、テーブルに並べる。
お父さん曰く、亡くなった母は働いていたものの、定時には帰宅してご飯を作っていたと言う。
だからきっと、僕が自分で料理を始めたのはつい最近。
「いただきます」
「いただきます」
「……水樹」
「何?」
「ご飯炊く時、水を入れ過ぎただろう」
「え、嘘。ごめん、柔らかかった?」
食べてみると、確かに柔らかい。
失敗した…と落ち込むと、父は首を振った。
「いや、これで良いんだ」
「え?」
「覚えていないか。
お母さんのご飯も、こんな風に柔らかかったんだ」
「……」
「覚えていなくても受け継いだんだな、おふくろの味を」
「……」
柔らかな、まるでお粥のようなご飯を口に運ぶ。
これが、お母さんの味。
「……美味しいね、お父さん」
「そうだな」