僕のスマートフォンが時空を超え1週間。

大学内の階段教室に着き座ると、後ろから頭を叩かれた。




「イテッ!」

「水樹!」

「何だよ太田…いきなり叩かないでくれない?」

「お前何で既読つかないんだよ」

「既読……あぁ!」



僕は鞄の中からアルバイト代で買った同じようなスマートフォンを取り出した。



「ごめん、スマホ変えたんだ」

「マジで?何で」

「落とした拍子に壊れちゃったみたいで、アハハ」

「笑い事じゃねぇだろ…」



呆れ顔の太田とラインのIDを交換する。



「それで?僕に何のメッセージ送ったの?」

「今日の講義の教室変わるってこと」

「え!?」

「今朝見ても既読ついていなかったから、もしやと思って来てみたんだ。
ここは健康福祉学部の生徒が使うんだとよ」

「健康福祉学部ってことは、宍戸先輩?」

「そ、俺の学部」



茶色い鞄を肩から下げた宍戸先輩が笑う。

宍戸先輩がキャプテンを務めるバスケサークルに所属している太田は、元気良く挨拶していた。

僕も太田より控えめだったけど挨拶をすると、頭を撫でられた。



「どうしたー?ん?元気ないな水樹」

「そうですか…?」

「悩み事なら俺に言えよ。先輩だからな」



高校時代先輩だったらしいけど、記憶にないので先輩とは思えない。

先輩と太田にはバスケサークルに入るよう誘われているけど、僕は首を縦に振ったことはない。

バスケは今でもプレーするのは好きなんだけど、きっと高校時代よりハマったり出来ないと思ったから。

…やっぱり、心に穴が開いている。



「水樹」

「はい」

「あんまり悩むな。ゆっくりで良い。焦るな」

「宍戸先輩…」

「無理して思い出そうとするな。無理すると壊れるぞ」

「…はい、気を付けます。ありがとうございました」



逃げるように僕は階段教室を出た。



「…水樹、きっと春沢が亡くなったこと、どこかで気にしていると思うんスよね」

「だろうな。
希和に聞いた話だと、水樹…春沢に告白したらしいから」

「春沢のことを思い出したら、きっと水樹、苦しみますよね。
あの日春沢を誘ったのは…」

「それ以上言うな。
ま、水樹のこと気にかけてやってくれ」

「了解っす!」