『~♪』




賑やかで、多くの人がいて、多くの車が行き交う交差点に響いた、軽快な音楽。

小さなそれを、わたしの耳は捉えた。




「あ、この曲」

「奥村知っているの?」

「俺が好きなバンドの曲なんだ。
マイナーだから、あんまり知っている奴いないと思ってた」



スマートフォンに予め入っている音楽じゃないんだ。

わたしは鞄の中に仕舞ってあった、黒いスマートフォンを取り出した。



「電話?」

「ん……ちょっとね」

「じゃあ出て良いよ。この信号長いから」

「でも…」

「ほら、鳴ってるぞ」



わたしはそこで気が付く。

充電がないと表示されていたはずなのに、音楽は鳴り、彼の新しく買ったスマートフォンの番号が表示されている。

わたしは耳に当てた。



『ここちゃんっ!?』

「水樹くん…?」

『今どこ!?』

「今…土木沢交差点だけど?」

『下がって!』

「え?」



「おい、危なくねぇかあれ」

「下がれ皆!」



『下がって!ここちゃん下がって!!』

「水樹くん、え?どういうこと?」

『──心ッ!下がれッ!!』





パッパー!!

ど──ん…!





甲高いクラクションの音、

耳障りなブレーキの音、



そして



何かに、当たる音。