補習までまだ時間があったので、普段通らないようにしているあの交差点に行ってみた。
父といる空間が苦手なんて、本当…情けない。
「……」
信号は青だったけど、僕は行かずに電柱の前で立ち止まる。
電柱には少し枯れかけた花束が置かれていた。
しゃがみ込み、ジッと知らない人から視線を浴びながら花束を見つめた。
「……はる、た?」
一見名前のように感じる、僕の名字が呼ばれる。
振り向いた僕は、小さな花束を持った筧希和に目を見開いた。
「筧さん……」
「春田、何でこんな所にいるの」
「こんな所って…」
「大学行くならあっちでしょ?」
まるでいなくなってほしいと言うように、筧さんは大学の方を指さす。
僕は立ち上がり、筧さんの持つ花束を見た。
「……知り合いだったの」
「え?」
「3年前の事故で…亡くなった人」
同い年の、女の子だと病院で医者から聞いた。
居眠り運転の車が直撃して、即死だったと。
「月命日だから、来たの」
「……」
「筧さんなら、知っているはずだよね。昔の僕を」
筧さんは黙って隣に来ると、花束を置き手を合わせ、枯れかけた花束を手に持って立ち上がった。
「忠告したはずよね。知らない方が良い事実もあるって」
「……言ったけど…」
「春田は気にしなくて良いの。
あの事故については何も触れないで!」
筧さんは逃げるように走って、やがて人混みに消えた。
僕は背負っていた、殆ど何も入っていないリュックサックを背負い直すと、大学へ向けて歩き出した。