奈々side

襖が閉まった瞬間、愛佳さんは手を振るのをやめてこちらを振り返る。

その顔はとても冷たく、氷のような冷めた表情。

「で、何であんた見つかってんの?てか何で紅瀬組に来たわけ?大人しく久月で甘やかされてなさいよ」

どうやらその様子と言動から、私が紅瀬組に来たことが気に入らないみたい。

私だけがこの組で唯一の女でチヤホヤされてたのに、って言いたいのかな。

だとしたらすっごい頭弱そう。

「好きでこちらにいるわけじゃないので」

「じゃあ何が理由?綾さんに取り入ろうってわけ?」

「綾牙さんから何も聞かされてないんですね。私は久月 尊と婚約していましたが、脅されて無理やりここに居ます。じゃなきゃこんな場所にいません」

そう言うと顔を真っ赤にして怒り出した。

「何よその口の利き方!!別に綾さんはね、多くを語らないだけで私が知らされてないわけじゃないわ!!無理やりなら今すぐここから出て行きなさいよ!」

「本当に頭が弱いんですね。脅されている、と言いましたよね?理解出来てないんですか?」

言い終えると同時に左頬に鈍い痛みが走る。

愛佳さんに頬を叩かれた。

愛佳さんは唇を噛み締めて私を睨んでいる。

「あんたさえ来なきゃ、上手くいってるのよ…あんたのせいっ…!!絶対、ここに来たこと後悔させてやるんだから…」

そう言い残して部屋から出て行ってしまった。

後悔なんてとっくにしてるわよ。

尊の…みんなの温もりがない場所なんて、私から見れば地獄に等しい。