綾牙side

「彼女、大丈夫ですかね」

「あ?奈々のことか?」

「えぇ。毎回婚約者として色んな女がここに出入りした時は、決まって何か起きています。そして怯えて出て行く」

そう、毎回のお決まりなんだ。

新しい婚約者が来る度に愛佳は世話係を申し出る。

そして決まって婚約者は怯えて自ら婚約破棄する。

理由を聞いても相当な口止めをくらっているのか、絶対口を開かない。

愛佳が何かをしているのは明白。

「注意は配っておけ。奈々は…大事な餌なんだからな」

アイツに何かあれば、今回俺の計画は間違いなく失敗する。

失敗する訳にはいかねぇんだ…絶対に。

「長い年月をかけて考え抜いた計画ですからね。このためにどれだけ動いたことか」

「別にいいだろ。成功すりゃお前も晴れて自由の身だ。お互い得しかねぇ…いや、得だけじゃねぇな」

いくら何でも久月は黙ってねぇな。

近い内に久月がこちらに来るかもしれない。

まぁ、その時はその時だ。

「朱雀、絶対誰にも悟られないよう動け。この計画は、お前と俺しか知らないんだからな」

「もちろんですよ、若。もうここまで来たんです、後戻りなんてできません」

何としてでも、俺にはやらなきゃならねぇことがある。

例えそれが休戦協定を破り、大きな抗争に発展したとしても。

紅瀬組全体の未来のために。

ーーー奈々と腹のガキの未来のために。