しまった、と思った。

この先バレるとしても、今ここでバレるべきではなかった。

堕ろせ、と言われたらどうしようと頭の中がいっぱいになる。

「綾牙、お前ツイてるな。嫁と一緒に世継ぎまでついてくるたぁ、運がいいじゃねぇか、なぁ?これでますます足枷が増える」

組長さんは私の目の前まで歩いてきて、耳元でこう言った。

「少しでも逃げるような素振りしてみろ。久月組とそのお腹のガキ…どうなるかわかるだろ?」

バッと顔を見ると、憎たらしく笑っていた。

久月だけじゃなく、この子まで利用するなんて…!!

私は唇を噛むしか無かった。

耐えろ、耐えるの。

私が従えさえしれば、みんな助かる。

傷付くのは私だけで構わない。

「話は済んだな?部屋に行け。綾牙、後のことはお前に任せる」

「あいよ、親父。行くぞ奈々」

無理矢理私の腕を掴んで立たせ、部屋へと向かう綾牙さん。

和室のその部屋には、すでに朱雀さんが待機していた。

「お待ちしておりました若、奈々さん」

深々と頭を下げる朱雀さん。

いつもならきちんと会釈するのだけれど、今はそんな気になれない。

綾牙さん、朱雀さん、この組の全てが敵に思える。

「妊娠してる、なんて聞いてないぞ?」

「言ってませんからね」

「相変わらず肝が据わってるなぁ!!ま、俺の妻になるんだ、それぐらいの度胸がなくちゃなぁ!!」

綾牙さんの妻に、なるんだ…。

何も出来ない自分に嫌気がさす。

逃げたくても…逃げられない。